📚千石ブッククラブ~あな~
今日のおすすめ絵本
このコーナーでは、千石在住の絵本の大好きなお母さんが子どもの頃に読んだ本、子どもと読んで楽しかった本を少しずつご紹介していきます。
日々の読書にお役立ていただけたら幸いです。
『あな』(谷川俊太郎/作、和田誠/絵、福音館書店/刊)
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=467
今回ご紹介するのは、なんともシンプルな展開だけど、妙に哲学的な絵本、『あな』です。
主人公はひろしという小さな男の子。
日曜日の朝、何もすることがなかったひろしは、あなを掘り始めます。
途中、おかあさんやいもうとのゆきこ、となりのしゅうじくんやおとうさんがやってきて、
いろいろな言葉を投げかけますが、ひろしはあなを掘ることをやめません。
興味もないのに話しかけてきたり、責任を負わないくせにアドバイスしてきたり、
思ってもいないのに褒めてきたり……あらゆる種類の声を受け流しながら、
手に伝わる確かな感覚だけを信じてあなを掘るひろし。
あなのことが本当にわかるのは、手を動かしている自分だけだと確信しているかのように……。
あながとうとう自分の体がすっぽり入るぐらいの大きさになると、ようやくひろしは掘るのをやめ、
あなの中に入って座り、空を見上げます。
「これはぼくのあなだ」
そして、あなから出たひろしは……。
本当にシンプルな展開。
だけど、
あなの中のひんやりとした空気。
土の匂い。
静まり返った時にしかきこえない「シーン」という音。
あなから見上げた空の広さ。
掘るごとに自分自身と向き合うような感覚。
やりたいことをやりたいだけやりきった達成感……。
いつしか様々な感覚をひろしと共有している自分がいるから不思議です。
ひろしがあなを掘るのをやめたのは、自分の五感と五官を使って全てを感じ取り、
心から「納得した」からではないでしょうか?
あなたはこの絵本を読んでどう感じるでしょう?
ぜひ、自らの手でページをめくり、感じてみてください。
このお話を書いたのは、日本を代表する詩人の谷川俊太郎さん。
谷川さんは、『二十億光年の孤独』『生きる』など教科書でおなじみの詩集の他にも、『スイミー』『スヌーピー』などの翻訳や『もこもこもこ』などの絵本など、驚くほど多くの作品を手がけています。
絵を描いたのは、和田誠さん。
晩年は、テレビで活躍する料理愛好家・シャンソン歌手の平野レミさんの夫として認識する人も多かったようですが、多くの絵本、雑誌、書籍のイラストを手がけるイラストレーターとして、また装丁家として、映画監督として、数多くの素晴らしい作品を遺した方です。
そしてこの、どこか飄々とした絵本の存在を私に教えてくれたのは、千石のお隣、本駒込にある独立系書店「BOOKS青いカバ」店主の小国貴司(おくにたかし)さん。
おくにさんは、池袋のリブロで書店員としての経験を積んだ後、この地に本屋さんを開いた方。長年担当していた外国文学を始め、小説、エッセイ、戯曲、ノンフクションと幅広い本に精通していらっしゃいますが、意外なことに絵本との出会いは最近なのだとか。
「絵本の良さに気づいたのは、子どもが生まれてからなんです。『あな』もそう。読み聞かせをしていて、え? 何これ、面白い!って」
ちなみに私から見た彼の印象も、この絵本同様「飄々としながらも哲学的」です。
「BOOKS青いカバ」は絵本も取り扱っていますので、よかったらお店に足を運んで、本と絵本とおくにさんをチェックしてみてください。
「BOOKS青いカバ」
新刊と古書を扱う書店。都営三田線千石駅より徒歩5分。「東洋文庫」のすぐ近く。
営業時間:月〜土11:00〜21:00、日・祝11:00〜19:00(定休日:火曜日)
住所 113-0021文京区本駒込2−28−24 谷口ビル1階
電話 03-6883-4507
ツイッター twitter.com/hippopotbase
ホームページ https://www.bluekababooks.shop
【案内人 栞本ことは(しおりもと ことは)氏 (千石在住)】
文庫活動(近所の子どもたちが自由に本が読めるよう、家の玄関先に本棚を置く)や手作り絵本の会(子どもたちが画用紙に文と絵を書き製本をし、世界に一つだけの絵本を作るお手伝い)をしていた母の影響で、自然と絵本や本に親しむようになりました。
本好きが高じて、出版社で編集の仕事をしているのですが、それでもまだ本への愛がおさまらず(?)、子どもが通う小学校で読み聞かせ隊をしたり、本のイベントをしたりしています。